感謝と祈り、思索と行動
                                         

2016年3月

                           清水 光幸

 近年の災害やテロ・戦争のことを思うと気が重くなり、未来について絶望的な気分になりかねない。しかし、世界の各宗教において常に終末論や末法思想は語られており、むしろ19世紀以来の、科学が自然をコントロールできるとする科学至上主義や、進化論的に生物は永遠に進歩するというような楽観論のもとで生きていた時代の方が短いことに気づく。

ここ数十年の各種研究によると、逆に宇宙の成り立ちや太陽の寿命が明らかになり、文献に残らない地球上の巨大災害に結び付く地殻変動や生命体の歴史も明らかになった。そのことを知った私は、多元宇宙の中でも、137億年膨張し続けているこの宇宙の、この銀河の、この太陽系の、この生命維持バランスに具合の良い地球に、知的好奇心を満たす程度にまで進化した一人間として、縄文時代にチベット・インドにつながるインドシナ半島や沖縄列島や大陸北部のバイカル湖付近などからやってきた縄文人と、弥生時代に中国大陸・朝鮮半島から移ってきた人類との間の末裔である日本人として、この現代に生まれた奇跡に対し、感動と感謝の気持ちを禁じ得ない。それゆえ、与えられた生命を十分に堪能し味わい尽くしたいと思うと同時に、さらに今後の子孫に継続させなければならないという使命を感じるのである。

 最近のDNA解析によれば、人類のすべてがアフリカに生まれた女性を母親とする子孫であり、その広がり方が克明にわかり、みな兄弟であることが科学的に証明されている。地球の地殻変動や、小惑星衝突の歴史や、1万年の間氷期を経た現在、地球温暖化の後に氷期が10万年ほど続くことが明らかになった今、人類のみならず全ての生物が運命共同体であることも科学的に明らかになっている。現代の人類は、これらの危機に対して、以前と違って克服可能性のある手段を持っている。

 したがって、世界各国の教育において、この科学的終末論とも言える危機意識を共有し、さらに克服するための共通目標を、矮小なセクト主義やナショナリズムに優先させることが、何よりも重要である。イデオロギーの違いや宗教宗派の違いや富の獲得による争いよりも優先すべきものがあることを、今こそ全人類が共有し、将来の子どもたちのために考えなければならない。

 しかし、残念ながら米ソ冷戦が終了してのち、アメリカ一国が世界の警察を標榜し、「アメリカンデモクラシー」を全世界に輸出するという「グローバル化」を進めようとし、またその建前でイスラム圏のオイルを我が物にしようとして、第二次世界大戦後の欧米の野望を継続した結果、世界に格差を生み、イスラム圏に過激派を生み、9・11以降現在まで続いているのである。

 この際、欧米諸国とイスラム圏にとどまらず、あらゆる文化の多様性の維持に努めつつ、人類史と地球史の大局に立って、互いを尊重し共生することこそ、真の民主化であることを肝に銘ずべきである。情報組織が他国に入り込んで政府を転覆し、搾取のシステムを作り上げようとするのは20世紀流のアナクロニズムでしかない。

 現状打開は厳しく、時間を要するだろう。日本の立ち位置は、イスラム教とキリスト教の間で、和解を促す最も良い位置にあると思うが、安部政権に可能だろうか。一般庶民としては、どうしようもなく歯がゆい感じがする。こういう時は祈ることしかできない。

 私が教育実習生だった時の指導教員が「祈りのこもった授業を」とおっしゃっていたことを今も覚えている。熱意だけでは伝わらない時、「少しでも良くなってくれるように」と心で祈るしかなかった。すると、自分のメンタルも落ち着き、次第に生徒に伝わることもあった。しかし、そんなことをすっかり忘れていたこともしばしばだったが。お釈迦様は、「王様同士の戦争は、自然災害のようなものだ」と考えていたと聞いたことがある。当時はやはり回向し祈るしかなかったのだろう。

 しかし、現代のようにネットなどのコミュニケーション手段があり、個々人に選挙権がある時代には、いくらか問題解決に参加しやすくなっている。まずは客観的な現状理解に努め、情報発信できれば発信し、議論を積み重ねて思索した上で行動することが重要だ。日本では海外情報が直接にはほとんど入ってこない。少しだが、CS放送には、常時国内外のニュースを発信する日テレとTBSの他に、海外からは中国CCTV・アメリカCNN・イギリスBBCがあり、NHKBS1には朝早くから放送される「ワールドニュース」がある。アジア・ロシア・ヨーロッパ各国・イスラム系のアルジャジーラなど世界各国のニュースが抜粋して放送されている。全く反対の立場から放送される内容も多いので貴重だ。時々録画してでも見ていただきたい。

 皆さんは、半年後に18歳で初めて投票する記念すべき日本人である。その重責を果たせるように、表面的教科書的な歴史だけでなく、ネットなどを使って明治期以降の真実の日本の姿を学び、いろいろな立場の意見に耳を傾けて自ら思索し、行動していただきたい。皆さん自身のためにも、将来の日本人のためにも、さらに将来の人類のことも忘れずに、行動していただきたい。

 卒業おめでとう!